大人の国イギリスと子どもの国日本

鹿鳴館


大人の国イギリスと子どもの国日本

著者/訳者: マークス 寿子/
出版社  : 草思社
出版日  : 1992/07


内容とは全く関係がないが、写真はビゴーの風刺画。鹿鳴館の紳士淑女も中身はサルというもの。
教科書で初めてこれを見たとき、えもいわれぬ白人への劣等感を持った。俺たちはサルなのか。
そして卑屈なことに白人と一緒になって、このサルを笑おうと思った。
おそらくは、この差別的な風刺画は多くの日本人に多大なるトラウマを与えたものと思われる。
 この本もまた、そういったズルさが見え隠れする。
 英語が弱い日本人留学生をクソミソにこき下ろす割には、日本を理解したいイギリス人のために英語で講義をすべきだというバランス感覚は何かおかしい。
イギリスから学ぶものは何もないならイギリス人に教えろ。とは一体何なのだろうか。明治時代の日本人は命がけでイギリスまで勉強に行ったのだ。
格安チケットで10時間も飛行機に乗れば日本に着いてしまう現代で、それすらしない人たちに一体何を教えるのだ。
 それに、作者は長い間の英国暮らしのせいで、日本についての理解があるとは思えない。
少なくともイギリス貴族はカツラをかぶって勲章やサーベルをぶら下げて生活していると考えるような日本人はいない。TVで「加藤伯爵」とか行っていたのはコントなのだ。編集の人だれか突っ込んでやれ。
人が多いのも、アジアの国なら当たり前。ついこの間までイギリスだった香港では、日本以上の人の流れで立ち止まることなど許されない。そして、それがアジアの活力ではないかと思う。
少々ひとがあたったからといって、わざわざ本に書いて批判する肝っ玉の小ささは何なのだ。
 考えてみれば1980年代には、海外に行ける日本人は限られていたし、外国人像は彼らから口伝えで聞いていた。1990年代は日本人がはじめて自信を持ち始めた時代であり、この後、バブル崩壊も起こる。
しかしながら、白人に対する劣等感もアジア人や黒人に対する差別感は昔ほどではない。
直接会ってみれば、彼らとて人間である。よい人も悪い人も、立派な人もクズもいる。
21世紀になってようやく、ビゴーのトラウマから抜け出ことを確認する。